月刊「根本宗子」第13号 『夢と希望の先』

幼馴染とおたくをしている間に出来た友達を除くとわたしには自力で作った友達が1人しかいない。その子とはものすごく仲がいいってわけじゃないし、考え方とか性格とかも似ていない。ただ出席番号が前後だったことがきっかけだった。お互い激しくない性格で、人に合わせるタイプの人間で、クラスにあまり馴染めてなかったからなんとなく一緒にいた。高校1年2年と同じクラスで、ちゃんとお互いのことを話すようになったのは2年の最後の方だった。3年生のときは違うクラスだった。

その子の好きなバンドのライブについて行ったり、学祭を見に行ったりでなんだかんだ高校卒業後も年に3回くらいは会っている。その子は今大学生だけど現在休学中で、わたしは高卒で事務職をしている。お互い違う環境で暮らすようになって、ああわたしこの子の生き方が全く理解出来ないんだなって知り合って6年目くらいで最近思った。自分の考えを曲げたくなくて、自分が間違ってないと思ったら謝りたくないようで、事なかれ主義のわたしはもっと上手に生きればいいのに、なんて上から目線だけど話を聞くたびに思ってしまっている。話し方や雰囲気は温厚なのに妙に頑固なところがある子だ。

もっとこうした方がいいんじゃない?あなたの為に言うけど、なんて言葉がいつも喉から出かかるけど大きなお世話だろうと飲み込むことが多々あって、今まで遊んでいる間は楽しいのにその後3日間くらいもやもやしてしまっていた。そして、ちょうど先週その子と遊んだので今週はもやもやが続いていた。

そんな中、今週の木曜日に月刊 根本宗子「夢と希望の先」を観に行った。

小さい頃からずっと一緒にいた親友と芸術家志望の24歳無職の彼氏との間で板挟みになって彼氏を選んで10年後、完全にフリーターになった彼氏に浮気されて別れて10年前の親友に懺悔するって内容だった。

もっと超越した所へ。から観始めて今回が一番つらかった。

10年前に絶交した親友に「私に会いたくなったら聞いてね」って渡されたCDに入っていた"さっちゃんのセクシーカレー"を聴くシーンで号泣だった。何年来の親友だとか彼氏が糞野郎だとかそういう背景は抜きにして、2人とも主人公のことが大好きでこうなってほしいっていうビジョンが各々の中にあるんだろうっていうのがめちゃくちゃよく見えた。そしてそれを押し付ける言い方しか出来なくって、主人公のさっちゃんもさっちゃんで正しい道を見誤ってしまって不幸へと一直線で進んでいた。

おたくをやめて彼氏をつくって、普通の生活をするようになってから根本さんの書く話に共感したり明日は我が身と怖くなることが増えた。面白いのはもちろんだけど、自戒の意味も兼ねて根本さんの舞台を観に行っている面もかなりあって、今回はまさにドンピシャだった。

「あなたの為に言ってるんだよ」「普通はこうだよみんなそう思ってるよ」という呪いの言葉がずっと頭から離れない。主人公のさっちゃんがわたしの友達で親友のえっちゃんをわたしに投影して観ていた。わたしは舞台みたいに重要な人生の分岐点を争っているわけじゃないけど、もし友達が誤った(ように見える)選択をした時きっと出来ることは何もなくって、10年後のさっちゃんを優しく受け入れることしか出来ないんだろうな。つらいな〜〜〜〜10年後のさっちゃん幸せになれるといいな。

10年前の親友のプールイさん演じるえっちゃんは、言ってることは間違ってないのに「私はさっちゃんが大好きだから言ってるんだよ?」「絶対おかしいよ!普通そんなことしないよ!!」ってただそれだけを繰り返すことしか出来なくて、自分の決意をひたすら否定され続けるさっちゃんは逆上することしか出来なくなっちゃって、本当に悪い説得のお手本のようなシーンだった。自分の意見を"普通はこうだよ"って言葉を隠れ蓑にして話されるの本当に腹立たしくて、えっちゃんの言ってること何も間違ってないのに観ているこっちが何故かムカついていた。

わたしの友達が不幸になるわけじゃないし、必ずしも間違った選択をしているわけじゃない。わたしの考え方とは全く違う生き方をしているからってわたしが悩む必要もきっとなくって、ただ話を聞くに徹するのがきっと正しい。最近母親に「人を思い通りにするなんて無理だってあんたたちを育てて悟った」って言われて、わたしの心に何かがグサリと刺さったけど、身内でそれなんだから他人を思い通りにするなんてもっと無謀なんだろう。劇中の言葉を借りるなら、どんなに似てると思っても結局同じ人間なんていないもんね。心に刻もう。

共感が高まるにつれてどんどん根本さんの舞台を一人で観るのがつらくなってきてしまって、来年の一本目は彼氏を引っ張っていくことにした。舞台デビュー。劇中の台詞で、「10年前私が偶然すれ違ったのが友近じゃなくて香取慎吾だったら完全に運を使い果たしてたね」っていうのがあったけど、終演後駅前で馬鹿よ貴方はのファラオさんを見かけてどっちだろうの気持ちになったよ。

本多劇場は今回初めて行ったけど、下北サンデーズ大好きマンには感慨深いものがあった。初本多劇場で面白い演劇が観られてよかった。長井さん出ないのめちゃくちゃ残念だけど来年も楽しみだな。

 

おしまい。