推しを失う疑似体験 - イントラロスがつらすぎる

8年ほど芸能人のおたくをやってきたけれど、幸いなことに歴代推しが芸能界を去ったことがない。スタダの元推しはグループは解散したけど事務所には所属したままだし、大平峻也くんは現在進行形で大人気俳優様だし、今の推しも芝居の仕事が半年以上ないけど一応告知待ちの舞台がある、らしい。俳優やアイドルが芸能界を去るたび、はてなTwitter上で"応援できるときに全力で応援しておけ"みたいな言葉が蔓延しているのでうんざりしながら、とはゆうても自分の好きなペースで応援すりゃいいじゃん???と思っていた。が、芸能人ではない推しがわたしの前から消えたので人生で初めて推しを失う苦しみを味わっている。

 

そもそもは結婚してからスポーツクラブに通いだしたことが事の発端である。わたしは泳げないのでスタジオプログラムに行くことに決めて、ヨガ、ピラティス、キックボクシング、太極拳、ジャズダンスなど一通り出てみた結果一番楽しかったのがZUMBAだったので他のプログラムにもちょくちょく出ながら、ZUMBAだけはほとんど毎週1回通っていた。

ZUMBAというのがなにかというと、ラテン調の音楽を流しながらインストラクターの動き(ダンス)を真似するプログラムである。一般的によく耳にするエアロビクスというのは、動きの型が決まっているので結構難しいらしく(出た事ないので知らないけど)、その点ZUMBAは指示も出されないしただ見て真似をすればいいし、きっちり真似をするというよりは音楽にノッて楽しく身体を動かそう、という感じなので気負わず出来る。大型スポーツクラブなどのZUMBAは大量のスピーカーから爆音で音楽が流れるしインストラクターさんはめちゃくちゃ煽ってくるのでフェスみたいになっている。

わたしが通っているところは郊外の弱小スポーツクラブなので子供と老人がほとんどを占めていて、わたしぐらいの年代の人はせいぜい大学生が泳いでいる程度、スタジオには殆どいないような環境だった。そんな風なのでZUMBAのインストラクター(=イントラ)もヘイヘイ煽ってくる感じではなくフロアの前で淡々と踊っているようなプログラムとなっていて、運動音痴のわたしにとっては最高の環境だった。身体を動かすことはわりと好きなんだけれども人に指示を出されると途端に出来なくて辛い気持ちになってしまうので。

そして、このZUMBAのイントラというのが、約半年間ほどわたしの推しとなっていた人である。20代後半くらいの男性で顔はサッカーの武藤に似ていた。若い男性のイントラは業界的にはわりと珍しいらしい。それでもって、タイトルの通り先日退職してしまったわけである。

 

まず、このイントラが退職したことの悲しみについてはわたしがいかにZUMBAを愛していたかを書かないと始まらないので、いつか同じようにイントラロスに陥った人と分かち合えることを願って(という口実で)書きたい。

そのイントラのZUMBAはまじで楽しくて、そもそもこの人のZUMBAしか出たことなかったけどまず第一になんだか雰囲気が良かった。2曲踊ったらインターバルというのを繰り返し、1時間踊るというのが体力的に非常にちょうどよく、始めはついていくのに必死だった曲も慣れてくるとイントラを見ずに踊れるようになって楽しかった。

基本的にダンスの心得がなくても見よう見まねで出来る程度の難易度なので頑張って継続しているうちに出来るようになる、という体験がたいへん楽しかった。休日の回に出ていたのでZUMBAを踊った週の水曜日くらいまでは仕事をしながらZUMBAのステップや曲について考えていたし、自力で使用曲を探し出してiPhoneにプレイリストを作って普段から聴いたりもしていた。夫との会話の6割くらいはパフェかZUMBAの内容だった。ここのステップがいいよね、あそこどうやってやるのか未だにわからん、みたいな話を無限にしていた半年間だった。

スポーツクラブの全時間を通せば週に何コマかやっているけれど、わたしは平日は仕事があるので週に1コマしか出られる回がなかった。しかもそれが土日なので予定があって出られないこともたまにあったりして、出来る限りZUMBAのある時間に予定を入れないよう心掛けながら生活する日々だった。

本当にこのZUMBAを愛していたんだけれども、昨年末のわたしが行ける年内最後の回に今年のZUMBA納めだな〜とルンルンで足を運んだ際、イントラが年内いっぱいで退職することを知った。つまり自分が行ける最終回に、突然今日が最終回であることを知らされたわけである。まるで打ち切り漫画のよう、、、、。

本当は何週間か前にお知らせがあったらしいんだけれども、わたしたち夫婦はたまたまその回に行っておらず、知り合いもいないので誰も教えてくれずに最終回、という流れだった。わたしはイントラとあんまり話したことがなかったけど夫とはお風呂で軽く会話する程度の仲だったんだから教えてくれたってよかったじゃないか…と未だに思う。最終回が始まる5分前くらいにいつもいるおばあさんに今日最後だから来てよかったわねえと声を掛けられて知ったので1時間失意のZUMBAを踊ることとなった。涙を堪えながらラテン調の曲で踊る女。

 

ここのZUMBAは毎月1曲ずつ曲が変わっていくシステムで、最終回の2ヶ月前くらいにエンディングの曲が変わっていた。その曲がsee you againというタイトルだということをわたしは自力の曲リサーチで知っていたので1時間一生懸命堪えた涙はエンディングで流れることとなった。約3年間の勤務だったらしく、エンディングの後アンコールが起きたので最後にもう1曲踊って終わりとなった。わたしは泣いていた。

半年間お世話になったイントラにいかにZUMBAが楽しかったか、大好きになれたかを熱弁したかったけど、涙を堪えることに精一杯でとてもそれどころではなく、お疲れ様でしたと一言いうのがやっとだった。

これは夫が最終回の後に風呂場でイントラから直接聞いた話なんだけれども、このイントラは現在専門学校に通っていて今年から実習が始まるので、そもそもインストラクターを始めた当初から3年で辞める予定だったらしい。わたしたち夫婦は、その辞める直前の半年間にギリギリ食いこめたのだ。スポーツクラブのインストラクターというのは社員の場合とフリーランスで契約している場合の2パターンがあって、社員はどうかわからないけどフリーランスは給料がまじで安いらしく、イントラを職業として食べていくのはなかなか難しいのだそうだ。若い男性インストラクターが珍しいのはそういう理由があって、わたしの推しメンだったイントラも在学中のバイトとしてZUMBAを教えてくれていただけだった。

 

わたしの夫の実家は両親ともにスポーツクラブフリークである。実家どころか夫の母方の実家までもが全員スポーツクラブに通っているような環境なので、気になったことを聞くと大体返事が返ってくる。最終日のZUMBAから自宅に戻った時、わたしが1時間くらいずっと泣きながら恨み節を言っていたのをひたすら慰めていた夫はその晩、実母(わたしの義母)とたまたま電話をしたらしく、インストラクター事情について色々と話を聞いてくれた。タイトルの"イントラロス"という単語を教えてくれたのも義母である。

大手スポーツクラブでも大体フリーのインストラクターというのは1コマ5000円程度しか貰えず、どんなに人を集めてもあんまり関係ないらしい。スポーツクラブにいる人っていうのはまじで1日中スポーツクラブにいたりするので人生の生きがいとして通っている人が多く、人気のインストラクターを追いかけて転職先のスポーツクラブに鞍替えする、というのもあるあるなようだ。大手には回数券があったりして、いちいち契約しなくても通える場合があるのだ。わたしの推しイントラは移籍ではなく職業ごと辞めてしまったので追いかけることも出来ないのか…と思うとまた涙が出た。

 

推しイントラが退職してから、通っているスポーツクラブのZUMBAの時間が変更になってしまった。わたしは夜限定会員なので全時間対応のコースに変更しないと新しいZUMBAに行かれなくなってしまい、来月からコースを変更する予定である。

退職後から現在までの空白の期間は夫実家の通うスポーツクラブにカリスマがいると聞きつけて電車で1時間かけて体験に行ったり、最寄りの大型スポーツクラブのZUMBAを体験したりしている。そもそもZUMBA自体が好きなのか、あのイントラのZUMBAだけが好きだったのかが分からないと始まらないし、あとは単純に身体を動かすことに飢えていたので。

そうして義実家のスポーツクラブでわたしは人生で初めてカリスマに出会ってしまった。カリスマは天使にラブソングをみたいなパーマを当てた年齢不詳の女性だった。めちゃくちゃ人気のイントラらしく、始まる30分前くらいからスタジオの前に行列が出来ていた。常連組はポジション取りも大事なのである。わたしの通うZUMBAは普通の主婦っぽい人とおばあさんしかおらず、男性というとわたしの夫だけだったのに、そのスポーツクラブは男女比4:6くらいだった。常連風の人たちは皆わたしの親世代くらいのTRFにいそうな風貌の人たちで、たいへん恐ろしかった。恐ろしかったけれども何しろカリスマなのでZUMBA自体は異常に楽しく、スタジオのスピーカーはいつものスタジオの5倍くらいついていたので爆音で踊り狂う様はさながらクラブのようだった(クラブに行ったことはない)。

わたしの知っているZUMBAとは何もかもが違った上、ダンスもハードだし休憩全然ないし死ぬほど疲れたけど楽しかったのでよかった。近所だったら通いたいくらいだったけれど遠いのでとても残念。あんなとんでもないカリスマでもお給料安いのかなあなどと考えてしまって悲しくなったのでわたしは今業界全体の賃金上げを願っている。

わたしの好きだったイントラのZUMBAはただ真似して踊るだけだったので、"普通のZUMBA"というのを体験してみて面食らった場面も多かった。でも結局感想としては楽しかったので来月から通い始める近所の新しいZUMBAのイントラがいい感じの人だといいな。今は水着を手に入れたので泳げないなりに週2回ほどビート板でバタ足をひたすらしている。あまり楽しいと思えないので早くZUMBAの女となりたい。

 

この一件で思ったのは、好きなものの柱をいくつか持っていてよかったなということだ。本当にZUMBAのことが大好きだったので、これでわたしがもしZUMBA単推しだったら立ち直れなかったと思う。今パフェとか旅行とか俳優の推しとかポケモンGOとか、好きなものがいくつもあるので、立ち直れてよかった。

家事を適当にこなして適度な運動をしていると自己肯定感がまじで半端ないので、精神衛生上超最高なのだ。わたしは新しいZUMBAが楽しいことを猛烈に願っている。

 

 

おしまい

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