君の人生をもう少し観ていたかった

※このエントリは2年ほど前にキャパ200くらいの劇場で行われた舞台のとある1人のキャラクターが忘れられないわたしを成仏させるためのものです。

 

2次元のキャラクターを推しにしている人は想像力が豊かですごいなあと横目で見つつ、今の今まで若手俳優のおたくをやってきた。

握手や会話も出来ないし、動いている様子を肉眼で見ることも叶わない、体温を感じることが出来ない相手について想像を膨らませることは物凄く体力が必要なことだと思う。2次元のジャンルの人は本当にすごい。漫画を読んでそこまで特定のキャラクターに感情移入が出来ないので死ぬほど読んだ漫画でも特別好きなキャラクターはいない。女児向けのアニメに推しキャラはいるけどそれは顔がかわいいからである。

 そんなわたしだったけど、実在しない人物を好きになる人の気持ちが少しだけ理解できるようになった舞台がある。

 

それは数年前に小規模キャパで行われた原作無しの完全オリジナル舞台だった。その時流行していた2次元作品のパクリみたいなタイトルで、内容は特別良いってわけでは無かった。客席が半分くらい関係者で埋められていたし、少数のファンが積むチェキ代でなんとかなっているみたいな様子だった。たった1人のキャラクターを除けば2年経った今さして思い出すキッカケもないような作品だったなあと思う。だけどわたしはその後今までそのたった1人の彼のいる村のモブ女である。

 

その舞台には当時の推しが出演していた。出演者扱いでチケットを取るとその出演者のピン写真がもらえたので、当然わたしは推し扱いで全公演のチケットを確保していた。全6公演なのに全6種類だったのを覚えている。

当時の推しは村のブレインような役柄だった。そしてわたしをモブ女にさせた架空のキャラクター(=虎七くん)は推しのいる村のリーダー的な存在だった。3番手くらいの準主役のとても良いポジションである。

虎七くんは仲間からの信頼が厚く、溌剌としていて笑顔で場を明るくする力があり、おいしいところは持っていく少年ジャンプの王道主人公のようなキャラクターだった。戦乱の時代の話だったので殺陣があり、中の人が殺陣経験者である虎七くんは舞台上のどのキャラクターよりも輝いて見えた。

物語は一つの刀を中心として、王国・敵・敵から謀反する右腕・虎七くん率いる村一団の4つが争いをする話である。先述の通り物語自体はそれほど素晴らしいわけではなかった。この脚演出家の作品はこの後にも3本くらい観たけど、全て趣味が合わなかった。主人公史上主義であり、どんなに素晴らしいキャラクターがいてもどんなに芝居が上手い役者がいても、主人公を立たせるために呆気なく死んでいく。絶対死ぬんだもん。

大体無能主人公がオロオロしてる間に7割死んで戦う決意が固まってきた間に重要な味方が犠牲になって、そこでようやく主人公覚醒で敵を倒すものの気がつけば生き残りは1人か2人みたいな。例外なくこの作品もそうだったし、わたしが今まで愛してやまない虎七くんも無念の死を遂げて消えていった一人である。(これは8割が脚本家への私怨であることは認めます。)

簡潔に言うとわたしはこの舞台のこのキャラクターをきっかけに数ヶ月後虎七くん役の役者に厨降りをした。虎七くんをあまりにも好きになってしまったことと、その時追っていた俳優現場がしんどくなったためです。今となってはあのとき推し扱いでチケットを取ってしまったために虎七くんのピン写真6種が手元にないことが何より悔やまれる。

 

 虎七くんという男の子(推定10代後半)は位の高くない村の出身であり、刀の使い手。お転婆な王女と遊ぶために幼き頃から城に忍び込むなど、ルールや常識に縛られることなく無鉄砲に生きてきたような男の子だった。そんな部分に村の人間は大きな信頼や頼もしさを彼に感じていたし、彼にも皆の先頭に立つだけの力があった。彼は結果的にはラスボスに斬られて死んでしまうんだけれども、その理由となった部分も彼の持つ魅力の一つであったと思う。

 彼が死ぬこととなった原因として1番に挙げられるのは、彼が単独行動を取ってしまったこと。同じ村出身の男5人女1人の編成を崩し、無鉄砲な虎七くんは1人敵陣に突っ込みあっさり捕まる。それを助けるため続いて他4人が城に忍び込み一度は合流に成功するも、力及ばず全員死んでいく。虎七くんの言葉のなかで1番好きなのは「これは俺の"物語"だ。武蔵野村は好きにやらせてもらうぜ付いてきてくれる仲間を信じてな」という所なんだけれども、そんな虎七くんの信念虚しく、散り散りになった仲間は1人ずつ殺され虎七くんはその亡骸を見ることすら出来ぬまま死んでゆくわけです。

彼を村のリーダーたらしめていたものはがむしゃらさや無鉄砲さ、逆境を乗り越えるために前進し続ける部分だったと思うけど、それは同時に村の仲間を失う原因となった部分でもあった。虎七くんにもっと戦略的思考があったならば、敵陣に1人突っ込むなんてことはしなかっただろうしいけ好かない王子ともっと早く手を組んでいたのではないかと、虎七くん亡き今、わたしは考えている。

 

虎七くんというキャラクターは今の私の推しの良さを全てぶち込んだような役であったと思うし、そういう役を当て書きしてくれた客演出家には感謝している(嫌いだけど)。推しの名前も存在すら知らない、この客演出家の他の作品も一度も観たことがない、なんのバイアスも掛からない状態で虎七くんに出会えたことはとても幸せな事だったなと思う。最近まで大きな作品に出ていたので、そこで推しは沢山のファンを獲得した。わたしが虎七くんに出会った時と同じように、彼の名前も顔も知らないような状態であの役を観て彼のファンになった人はきっとこの先ずっとその役が特別になるんだと思う。

推しの情報をリセットすることは出来ないからそういうフラットな状態でお芝居を観られることはわたしはもう一生ないので、毎度毎度新規のファンの子達がものすごくうらやましい。

こうして2年以上も経っているのに未だに虎七くんを愛する亡霊として彷徨っているのは今現在わたしの他に誰も虎七くん、おいてはその作品の話を誰もしない状態だからです。全部わたしの夢だったんじゃないかなあとすら思うことがある。そんな中で、この間の接触のとき推しに「来週こういう頑張らなきゃいけないことがあるから、頑張れるようなチェキが撮りたい」と持ちかけたら演出家に没にされた虎七くんの挨拶の仕方を教えてくれて、堪らなくなってこのブログを書いた。

あの作品が終わってから虎七くんの話題を本人に直接言ったことも手紙に書いたことも殆ど無かったけど、そうやって名前を出してくれたことがあまりにも嬉しくて、当然だけど件の頑張らなきゃいけないことが無事に頑張れたことは言うまでもありません。

こうやって思っていることを全部書くことが出来たので、もう虎七くんの話題を出すのはやめようと思う。(鍵アカウントでは言うかもしれないけど。)本当に良い役だったなあ。またそういう役を演じる推しが観たいなあと思います。良いお仕事に巡り会える俳優人生となりますように。

 

おしまい